日本共産党の大国陽介です。
会派を代表して、第1号議案「令和5年度島根県宅地造成事業会計補正予算・第3号」について、反対の討論を行います。
本補正予算案は、新工場を設置しようとする株式会社出雲村田製作所が用地を取得するにあたって、同社が必要とする工業用地の造成事業を県が実施することとし、安来市切川(きれかわ)地区において、用地造成のための各種調査等を実施するためのものであります。
日本共産党県議団は、本議案を審査するにあたって、去る2月9日、造成が計画されている予定地を調査してきました。雪を頂く伯耆富士・大山を背に白鳥が羽を休め、美しい水田と古くからの集落が、ふるさと島根を感じさせる景観をつくり出していました。優良で広大な農地を転用し、大規模に開発することで、周辺環境に大きな影響が及ぶことは避けられません。
我が党は、企業が法や社会通念、社会的ルールに則り、事業を展開していくことに異論を述べるものではありません。公共の福祉の枠組みの下、企業の自由な経済活動は保証されるべきものと考えます。しかしながら、今回の計画は、この枠を大きく超えるものであり、「住民福祉の増進」という自治体本来の役割に照らすとき、強い懸念を生じさせるものとなっています。
本事業は、大企業・誘致企業“いいなり”となっている県政の「ゆがみ」が露骨に表れています。今回の補正予算と新年度の当初予算とで、事業中止時の最大の費用負担額として、4億7千万円余の債務負担行為が設定されようとしています。すなわち、地質調査等の結果、予定地が工場立地に適さず、事業中止となった場合、本来企業が負うことになるリスクを、県が丸ごと肩代わりすることに他なりません。
さらに、組織改正によって、新たに企業立地課に専任のスタッフを配置し、企業局に工業団地整備室を新設するなど、企業の希望を叶えるための体制づくりまで行うことは、行き過ぎた大企業優遇の県政運営であると言わざるを得ません。企業のスケジュールを優先し、「令和6年中に立地判断に必要となる情報を企業に提供するため」として議決を急ぎ、本日の定例会初日に先議案件としていることなど、異例の事態であると言わざるを得ません。
以下、各論的に反対の理由を申し上げます。
一つに、県が造成しようとする予定地は、平野部の耕作に適した水田であり、今回の造成によって20ヘクタールの優良農地が失われることになります。世界的な食糧危機が叫ばれ、食料自給率の向上が強く求められているもと、県の農業振興策とも相反するのではないでしょうか。
当該農地について、農地法第5条1項を適用し、農地転用の許可が不要なものとして処理されることになっていますが、地域振興の名を借りて、農地を守るべき行政が、工場立地のために優良農地を犠牲にするなど、許されるものではありません。
二つに、世界的な気候変動のもと、激甚化する豪雨災害が県内でも多発するなか、広大な水田が失われることで、洪水調整など水源かん養機能が損なわれ、洪水の危険が高まるのではないでしょうか。
三つに、労働力人口が減少するもと、雇用の奪い合いなど、地場企業・既存事業所への悪影響が懸念されます。雇用の受け皿を拡大し、県外への人口流出を抑えたいという考えに異論はありません。しかしながら、限られた労働力人口の下、既に労働者の争奪戦とも呼べる現象が出雲市など、県内各地で顕在化しています。地場企業・既存事業所の人手不足に拍車がかかることは想像に難くありません。
四つに、破格の助成金など企業誘致のあり方についてです。当該企業は、既に出雲市や大田市で大規模な工場を操業しており、さらに増設する計画もすすめられています。当該企業に対しては、企業立地助成制度に基づき支払われた助成金は、94億円を超え、既に認定されている計画に対しての支払い見込み額を含めると累計で113億円余にも達します。一企業に莫大な税金がつぎ込まれるという、このような大企業を過度に優遇する助成制度は改めるべきです。
最後に、本県の産業振興は、農林水産業を中心に、地場企業、県経済を支えている中小企業の振興にこそ軸足を置くべきであります。本県の基幹産業である農業を犠牲にして成り立たせる地域振興策など、自治体の仕事として本末転倒だと言わざるを得ません。地域資源を生かして内発型・循環型経済の発展こそめざすべきです。当該企業はもとより、大企業にはその体力にふさわしく、安定した雇用のみならず、地域経済や生活環境等に対し社会的な責任を果たすことが強く求められていることを強調するものです。
以上、討論といたします。